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東京高等裁判所 平成5年(行ケ)208号 判決 1996年3月27日

東京都東村山市廻田町3丁目19番13号

原告

蒔田義夫

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 清川佑二

指定代理人

鈴木誠

園田敏雄

幸長保次郎

伊藤三男

関口博

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成3年審判第21401号事件について、平成5年10月7日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和62年5月18日、名称を「液化石油ガス供給装置用減圧装置」とする考案(以下「本願考案」という。)につき、実用新案登録出願をしたが、平成3年10月8日に拒絶査定を受けたので、同年11月5日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成3年審判第21401号事件として審理したうえ、平成5年10月7日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年11月13日、原告に送達された。

2  本願考案の要旨

低圧側に、安全弁2cの作動ガス圧より低い気密検定基準を基に製造された元栓類、ガス燃焼器類、安全装置類、ガス導管継目などの中の一つ以上を設けた欠陥を具有する液化石油ガス供給装置の従来の安全弁付き調整器2を排除して、代りに、高圧ボンベ1と前記各種ガス器具との間に設けるための、高圧ガス入口側に減圧弁6aを設け、低圧ガス出口側に設定以上のガス圧で作動する自動遮断弁6eを設けた構造になっている従来の液化石油ガス供給装置用の減圧装置。

3  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願考案は、本願出願前日本国内において頒布された刊行物である特開昭51-22297号公報(以下「引用例」という。)に記載された考案(以下「引用例考案」という。)に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと認められるので、実用新案法3条2項の規定により登録を受けることができないとした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、引用例の記載事項及び本願考案と引用例考案との相違点<1><2>の各認定は認め、各相違点についての判断及び結論を争う。

審決は、本願考案の本質を誤解して、相違点<1><2>についての判断を誤った(取消事由1)ものであり、また、実用新案法3条の2の規定に違反している(取消事由2)から、違法として取り消されなければならない。

1  取消事由1(本願考案の本質の誤解に基づく、相違点<1><2>についての判断の誤り)

(1)  本願考案は、プロパン用の液化石油ガス供給装置の欠陥の解明と、その解明に基づいて考案された欠陥の解決法に関するものであり、2つの重要な限定と構造によって構成されている。

第1は、本願考案の要旨の前半の「低圧側に、安全弁2cの作動ガス圧より低い気密検定基準を基に製造された元栓類、ガス燃焼器類、安全装置類、ガス導管継目などの中の一つ以上を設けた欠陥を具有する液化石油ガス供給装置の」に示された本願考案の課題である「欠陥を具有する」によって表現されている用途の限定であり、本願考案の中心的構成要件である。

第2は、その後半の「従来の安全弁付き調整器2を排除して、代りに、高圧ボンベ1と前記各種ガス器具との間に設けるための、高圧ガス入口側に減圧弁6aを設け、低圧ガス出口側に設定以上のガス圧で作動する自動遮断弁6eを設けた構造」であり、本願考案の重要な構成要件である。

したがって、本願考案の審査・審判に際しては、引用例に、上記第1の限定及び第2の構造が記載されているかどうかが審理の対象となっていなければならない。

ところが、審決では、本願考案の中心的構成要件である上記第1の限定が審理の対象となっておらず、かつ、引用例には、本願考案の重要な構成要件である上記第2の構造の記載がなく、審決は、この点で誤りである。

(2)  本願明細書(図面を含めていう、以下同じ。甲第2、第5号証)及び引用例(同第6号証)に示されている従来の液化石油ガス供給装置は、液化されたプロパンを充填したガスボンベ、減圧弁と安全弁を内蔵した調整器、メーター、ガス栓(元栓)、ガス燃焼器などの順で連結構成され、減圧弁を境に、ガスボンベ側が高圧側、ガス栓側が低圧側である(甲第2号証第1図、甲第6号証11頁第1図)。

この調整器内の減圧弁が経年劣化して、ガス使用停止中に、閉じられている減圧弁から高圧ガスが漏洩して、低圧側のガス圧が設定以上に高くなる場合がある。低圧側のガス圧が設定以上に高くなると、屋内のガス栓などからガスが漏洩する危険があるので、安全対策として調整器内に安全弁を設け、安全弁が上方に開いて余分なガスを大気中に放散し、低圧側のガス圧を設定以下に保つようになっている。

しかし、このような構造及び安全弁が正常に機能して安全を保つには、ガス栓や継目などの気密を安全弁の作動ガス圧(気密)よりできるだけ高くしなければならない。ところが、従来の安全弁がガスを放散するようになる作動ガス圧水柱560~840mm(気密でもある)に対し、ガス栓などの気密は水柱420mm以上になっていて高低が逆になっている。

そのために、従来の液化石油ガス供給装置は、劣化した減圧弁からガスが漏洩して低圧側のガス圧が高くなった場合、ガスは安全弁から放散しないで、気密が低いガス栓などから漏洩し、従来の多くのガス事故の原因となるという欠陥を有している。

また、安全弁が作動したとしても、プロパンガスは、空気より重いため、安全弁から放散されたガスが下水溝や盆地に滞留したり、風などの条件によって建物の床下に侵入したりして、引火爆発することがあり、事故にならない場合であっても、安全弁から大量のガスが放散され、無駄になり、不経済である。

さらに、ガス遮断弁の設備位置の欠陥もある。すなわち、液化石油ガス供給装置においては、保安用ガス遮断弁とボンべとの距離が近い程、保安のためにも、経済性の上でも効果が高いが、ガス遮断弁をメーターと一体にした従来例(甲第10号証)あるいはその下流側に設けた引用例考案では、ボンベとガス遮断弁までの距離が長いため、安全性も相応に低下し、経済性も劣る。

(3)  本願考案は、従来の液化石油ガス供給装置の上記のような欠陥を解決することを目的として、従来の液化石ガス供給装置の安全弁付き調整器を排除して、代りに、減圧弁と自動遮断弁とを設け、安全弁は設けない構造の減圧装置を設ける構成にしたものである。

上記の構成を採用することにより、本願考案においては、ガス使用停止中に減圧弁から高圧ガスが漏洩して低圧側のガス圧が設定以上に高くなった場合、遮断弁が閉じられて、ガスは高圧側に閉じ込められ、低圧側に流れない。この場合、遮断弁の高圧側は高圧となるが、低圧側は低圧のままである。

このようにすると、従来の液化石油ガス供給装置の、安全弁の作動ガス圧とガス栓などの気密が逆になっている欠陥だけでなく、放散ガスによる事故や不経済性の欠陥も解決する。

さらに、本願考案は、ボンベに取り付ける調整器と自動遮断弁を一体にして、ボンべと自動遮断弁との距離を短くして、従来例の欠点を解消した。

(4)  課題の原因である従来の液化石油ガス供給装置の欠陥が解明されない限り、課題の解決法は得られないところ、プロパンガスを民生用燃料として利用するようになってからの歴史は浅いため、関連技術の研究発展も遅れており、関連資料が少ないので、上記従来の液化石油ガス供給装置の欠陥に関する資料は存在せず、引用例にも、これら欠陥に関連する記載はなく、上述の課題は開示されていない。

このように、本願考案が解決しようとする課題である従来の液化石油ガス供給装置の欠陥に関する資料はなく、引用例考案においても、この欠陥についての認識はないから、その解決法の発想はありえず、したがって、引用例考案の構成から、本願考案が従来の液化石油ガス供給装置の欠陥を解決するために採用した審決認定の相違点<1><2>に係る構成を想到することは当業者にとってきわめて容易であるとは到底いえない。

そして、本願考案は、上記のとおり、安全弁を排除することによって、従来の液化石油ガス供給装置の欠陥を根本的に解消するという顕著な作用効果を奏するものである。

(5)  以上のとおり、審決の、本願考案の相違点<1><2>に係る構成を想到することは当業者にとってきわめて容易であり、よってもたらされる効果も格別顕著であるとは認め難いとの判断は誤りである。

2  取消事由2(実用新案法3条の2の規定違反)

引用例記載の発明の発明者及び出願人は、本願考案の考案者及び出願人と同一人であるので、実用新案法3条の2(平成5年法律第26号による改正前のもの。以下同じ。)の括弧書き及び但し書の規定により、引用例考案と本願考案とが同一であっても、登録を受けることができるものであるから、審決の判断は、上記規定に反し、違法である。

第4  被告の反論の要点

審決の認定及び判断は正当であって、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がない。

1  取消事由1について

(1)  引用例(甲第6号証)には、低圧側にガス栓5(本願考案の「元栓類」に相当する。)、ガス器具栓7(本願考案の「ガス燃焼器類」に相当する。)を、調整器内に安全弁2aを、それぞれ設けた液化石油ガス供給装置が示され(同号証11頁第1図)、「ガス栓5の気密は、検定基準は水柱420mm以上」(同8頁左下欄17行)、「調整器内のガス圧は・・・(作動ガス圧・700±140mm)」(同9頁右上欄5~10行)と記載されて、ガス栓5が安全弁の作動ガス圧より低い気密検定基準を基に製造されたものであることが示されいるから、「欠陥」を具有する液化石油ガス供給装置が引用例に記載されていることは明らかである。

したがって、引用例考案において、「低圧側に、安全弁の作動ガス圧より低い気密検定基準を基に製造された元栓類、ガス燃焼器類、安全装置類、ガス導管継目などの中の一つ以上を設けた欠陥を具有する液化石油ガス供給装置」の構成は開示されている。

引用例には、安全弁2aと弁2c(減圧弁)とを組み合せた調整器2と、ガス栓5との間に自動遮断装置11を設けることが記載されており(同11頁第7図)、この自動遮断装置11は、審決でも認定したとおり(審決書8頁7~9行)、本願考案の自動遮断弁6eに相当する。

審決が相違点<1><2>として認定した事項をまとめると、引用例考案は、安全弁2aと弁2c(減圧弁)とを組み合せた調整器2を有し、本願考実は、この調整器2を減圧弁に置き換えた点において相違すると認定したものであるから、本願考案が減圧弁6aを設けた点については、相違点として認定しているものである。

調整器を有していることは、本願考案の構成要件とはなっていないから、原告の、本願考案は、自動遮断弁を上流側のボンベに取り付ける調整器と一体にしている点で引用例考案と相違するとの主張は理由がない。

なお、上記「調整器」が実用新案登録請求の範囲記載の「減圧弁6a」を意味するとしても、本願考案の減圧装置が単一の機器でありこの単一の機器に減圧弁と自動遮断弁が一体として組み込まれているものと限定的に解すべき理由はない。

したがって、審決は、本願考案の本質を理解して、本願考案と引用例考案の一致点、相違点を認定しているから、審決に原告主張の誤りはない。

(2)  引用例(甲第6号証)には、従来の液化石油ガス供給装置においては、供用期間中に導管、ガス栓等の気密性劣化に伴って、これらから、安全弁が作動する圧力より低圧でガスが漏洩するという問題があること、この問題を解決するために調整器2とガス栓との間に自動遮断装置11を設け、これによって、上記問題を解決することが記載されている。したがって、引用例考案は、安全弁が存在すること自体の「欠陥」に伴う問題(安全弁からガスが放散することによる事故の発生、ガスの不経済)の解決の点を除き、本願考案の課題を解決したものであるということができる。

一般に液化石油ガスボンベに接続されている管路を異常高圧ガスから保護する目的の安全弁を減圧弁の下流側に設けるのが常識であり、引用例考案が、特に減圧弁と安全弁とを組み合せて調整器を構成したのも、このためであることは明らかである。

そして、安全弁は、高圧ガスを大気に安全に放出して、その管路を異常高圧ガスから保護するものであるから、これが作動するとき、液化石油ガスが大気に放出される。安全弁によるこのような安全対策を考慮しなければ、安全弁は不要であって、安全弁が存在することによる上記の問題がそもそも生じないことは自明のことである。

また、そもそも減圧弁は安全弁とは無関係に単独に使用されるものであることは、従来周知のことである。

したがって、安全弁による管路の保護を考慮せず、安全弁の存在それ自体が内包する上記問題の回避のために、引用例考案の調整器を安全弁を有しない通常の減圧弁に置き換えることは、当業者が必要に応じてきわめて容易になしえたことである。

審決の相違点<1><2>についての判断に誤りはない。

2  取消事由2について

実用新案法3条2項の規定は、出願前公知・公用の技術(同法同条1項各号の規定する考案)に照らして新規な考案であっても、出願前公知・公用の技術に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができた考案については実用新案登録を受けることができないことを定めた規定であり、この場合、上記公知・公用の技術が出願人の考案に係るものであるか否かは関わりのないことである。

同法3条の2の規定は、いわゆる先願権の拡大を図ることをその趣旨とするものであり、後願の考案が先願の明細書に記載された考案(又は発明)と同一である場合はその考案について実用新案登録を受けることができないことを規定し、合わせて後願の考案者(又は発明者)が先願の考案者(又は発明者)と同一の場合、又は後願の出願人が後願の出願の時に、先願の出願人と同一である場合は、上記規定の適用を除外することを規定したものである。

したがって、同法3条2項と3条の2の規定は、その趣旨を異にする。

引用例考案は、本願考案に対して、出願前公知の関係にあるから、同法3条2項を適用した審決に何ら違法の点はない。

第5  証拠関係

証拠関係は記録中の証拠目録の記載を引用する。書証の成立についてはいずれも当事者間に争いがない。

第6  当裁判所の判断

1  取消事由1(本願考案の本質の誤解に基づく、相違点1、2についての判断の誤り)について

(1)  本願考案の要旨が前示のとおりであることは、当事者間に争いがない。

そして、本願考案の要旨における「欠陥を具有する」とは、本願明細書(甲第2、第5号証)の記載に照らせば、「低圧側に、安全弁の作動ガス圧より低い気密検定基準を基に製造された元栓類、ガス燃焼器類、安全装置類、ガス導管継目などの中の一つ以上を設けた・・・液化石油ガス供給装置」においては、「低圧側のガス器具の各種継目や嵌合部分などが経年劣化して、その気密が安全弁2cの最高作動ガス圧水柱840mmの前後以下まで低下した場合、劣化した減圧弁2aと弁座2bの間から高圧ガスが低圧側に漏洩しても、安全弁2cから過剰ガスが大気中に放散されるか、屋内の閉められている元栓や器具栓その他の低気密部分から漏洩するようになると、低圧側のガス圧はそれ以上に高くならないので、弁座に対する減圧弁の圧接力もそれ以上に強くならないため、減圧弁からの高圧ガス漏洩を遮断できなくなる。即ち、当初に意図した減圧弁から高圧ガスが漏洩した場合、低圧側のガス圧上昇に伴い弁座に対する減圧弁の圧接力が強くなる筈の機能が、安全弁の作動ガス圧や低圧側ガス器具全体の気密が低すぎるために働かなくなり、閉めてある元栓や器具栓その他から高圧ガスが漏洩して事故原因になつており、それは致命的欠陥になつている。」(甲第2号証明細書5頁8行~6頁5行)ことを意味すること、すなわち、安全弁の作動ガス圧より低く定められている従来の気密検定基準に基づき製造された元栓類、ガス燃焼器類、安全装置類、ガス導管継目などを設けた液化石油ガス供給装置においては、軽年劣化により気密が低下し、減圧弁から高圧ガスが漏洩した場合に、安全弁の作動ガス圧や低圧側ガス器具全体の気密が低すぎるために、閉めてある元栓や器具栓その他から高圧ガスが漏洩してしまって、低圧側のガス圧上昇に伴い高圧ガス漏洩を遮断する減圧弁の機能が働かず、高圧ガスの漏洩を防ぐことができないため、事故原因になることをもって、「欠陥を具有する」としているものと認められる。

そして、本願考案が、従来の液化石油ガス供給装置が具有するこの「欠陥」を解消することを課題として、その解決手段として、本願考案の要旨の後半に示された「安全弁付き調整器2を排除して、代りに、高圧ボンベ1と前記各種ガス器具との間に設けるための、高圧ガス入口側に減圧弁6aを設け、低圧ガス出口側に設定以上のガス圧で作動する自動遮断弁6eを設けた構造」を採用したものであることは、本願明細書(甲第2、第5号証)の全記載から、明らかである。

(2)  一方、引用例(甲第6号証)には、「従来システムのガス栓5の気密は、検定基準は水柱420mm以上、製品試験は水柱1000mm程度で行われるが、ホース等と共に使用や経年劣化に伴い気密は低下する。そのため調整器弁2cから高圧ガスが漏洩するようなことが生じても、気密低下部分からガス漏洩するようになると、低圧側のガス圧がその許容ガス以上に高くならないため、弁座2bに対する弁2cの圧接力もそれ以上強くならない。従って低圧側の気密が低下する程、弁座2bに対する弁2cの圧接力の限界も下がり、高圧ガスが漏洩し易くなる。」(同号証8頁左下欄17行~右下欄7行)、「調整器内安全弁2aの作動ガス圧は、弁2cが開かれた際の正常な最高ガス圧で作動しないように高く設定されている。(作動ガス圧・水柱700±140mm)」(同9頁右上欄7~10行)、「低圧側のガス圧が規定以上に高くなったために、規定以下のガス圧では漏洩しないような条件のホース6の割れ目、嵌合部分、ガス栓5の摺動部分等からガス漏洩したと思われる例も多い。」(同頁左下欄13~16行)、「この発明は、液化石油ガスを高圧ボンベで直接供給して使用する従来システムの調整器2とガス栓5類との間に、低圧側のガス圧が設定以上に高くなった場合に作動する放出用安全弁類を設備した防災システムである。この防災システムは、使用中断中に高圧ガスが漏洩して低圧側のガス圧が設定以上に高くなると、作動ガス圧が低い放出用安全弁が作動してガスを屋外に放出し、ガス圧の異常上昇による屋内でのガス漏洩を防止する。」(同9頁右下欄18行~10頁左上欄7行)と記載され、実施例につき、「第6図のように、放出用安全弁10の出口側に作動ガス圧が低い自動遮断装置11を併設すると、放出用安全弁10の作動ガス圧を高く設定できるので、弁2cの高圧ガス遮断力が強くなるため、無駄な漏洩ガス放散を防止できる。第7図は高圧ガス漏洩に対する最も効果的な防災システムである。従来の調整器2と安全弁2aをそのまゝ利用でき、自動遮断装置11の作動ガス圧は、ガス栓5入口側の閉塞ガス圧より若干高く設定し、放出用安全弁10の作動ガス圧は、自動遮断装置11の作動ガス圧より若干高く設定すると、ガス栓5入口側のガス圧は、どのような条件の場合にも、常時、自動遮断装置または放出用安全弁の作動ガス圧以下に保たれる。」(同10頁左上欄19行~右上欄13行)と記載されており、第6図(同11頁のもの、以下同じ。)には、従来の調整器2とは異なり、調整器2内には安全弁2aを設けず減圧弁2cのみが設けられ、この調整器2の下流側に順に放出用安全弁10と自動遮断装置11が設けられた例が、第7図(同11頁のもの、以下同じ。)には、調整器2内に減圧弁2cとともに安全弁2aが内蔵されている従来の調整器2の下流側に順に自動遮断装置11と放出用安全弁10が設けられた例が図示されており、この自動遮断装置11は、設定以上のガス圧で作動する弁11cにより高圧ガスを遮断する構造となっていることが認められる。

これらの記載によれば、引用例考案は、「低圧側に、安全弁の作動ガス圧より低い気密検定基準を基に製造された元栓類、ガス燃焼器類、安全装置類、ガス導管継目などの中の一つ以上を設けた欠陥を具有する液化石油ガス供給装置」の欠陥を解消することを課題として、低圧側のガス圧が設定以上に高くなった場合に作動する放出用安全弁と自動遮断装置を設け、自動遮断装置の自動遮断弁の作動により低圧側への高圧ガスの流入を遮断する構成を採用したものであることが、明らかである。

(3)  以上の事実によると、本願考案と引用例考案は、ともに、「低圧側に、安全弁の作動ガス圧より低い気密検定基準を基に製造された元栓類、ガス燃焼器類、安全装置類、ガス導管継目などの中の一つ以上を設けた欠陥を具有する従来の液化石油ガス供給装置」の欠陥を解消することを課題として、その解決手段として、ともに、「高圧ボンベ1と前記各種ガス器具との間に設けるための、高圧ガス入口側に減圧弁を設け、低圧ガス出口側に設定以上のガス圧で作動する自動遮断弁を設けた構造」を採用したものであるということができる。

したがって、引用例には、本願考案の課題が既に開示されているから、これが開示されていないとする原告の主張は採用できない。

(4)  原告は、引用例考案には、本願考案の「従来の安全弁付き調整器2を排除して、代りに、高圧ボンベ1と前記各種ガス器具との間に設けるための、高圧ガス入口側に減圧弁6aを設け、低圧ガス出口側に設定以上のガス圧で作動する自動遮断弁6eを設けた構造」は記載されていないと主張するが、引用例考案も、「高圧ボンベ1と前記各種ガス器具との間に設けるための、高圧ガス入口側に減圧弁を設け、低圧ガス出口側に設定以上のガス圧で作動する自動遮断弁を設けた構造」を有することは、上記のとおりであり、また、本願考案が「従来の安全弁付き調整器2を排除して」いるのに対し、引用例考案が放出用安全弁10若しくは調整器2内に内蔵された安全弁2aを有している点については、審決が両者の相違点<1>として、「本願考案は、『欠陥を具有する液化石油ガス供給装置の従来の安全弁付き調整器を排除して』いるのに対して、引用例に記載の考案では、液化石油ガス供給装置の従来の安全弁付き調整器を配設している点」(審決書9頁20行~10頁4行)を認定し、相違点<1>の判断において、「本願考案が排除したのは、安全弁であるというべきで」(同10頁19~20行)として、この点を相違点として認定しているから、原告の上記主張は失当である。

また、原告は、本願考案は、自動遮断弁を上流側のボンベに取り付ける調整器と一体にしているが、引用例考案は自動遮断弁をメーターの下流側に設けている点で相違すると主張するが、本願考案は、自動遮断弁6eを高圧ボンベ1と前記各種ガス器具との間の低圧ガス出口側に設けることを要件としているのみで、自動遮断弁をメーターの上流側にあるボンベに取り付ける調整器と一体にすることを必須の要件としているとは認められないから、原告の主張は採用できない。

(5)  上記のとおり、本願考案と引用例考案の相違点は、本願考案が「従来の安全弁付き調整器2を排除して」いるのに対し、引用例考案が放出用安全弁10若しくは調整器2内に内蔵された安全弁2aを有している点にあると認められる。

ところで、本願考案の「従来の安全弁付き調整器2を排除して」における「安全弁」が「安全弁2c」を指すことは、本願考案の要旨及び本願明細書(甲第2、第5号証)の記載から明らかであり、引用例(甲第6号証)において、これに該当するものは「安全弁2a」であり(同号証11頁第1図、第7図)、引用例における「弁2c」は、本願考案における「減圧弁2a」に該当することも、本願明細書及び引用例の記載から明らかである。

そして、前示のとおり、引用例には、従来の調整器2とは異なり、調整器2内には安全弁2aを設けず減圧弁2cのみが設けられた例(第6図)が開示されているから、引用例考案においても、「従来の安全弁付き調整器2を排除して、・・・高圧ガス入口側に減圧弁を設け」た構成が開示されている。

したがって、本願考案と引用例考案(第6図のもの)とは、引用例考案において、放出用安全弁10がなお設けられている点において、これを設けない本願考案と相違し、その余の点においては、一致するものと認められる。

この点につき、引用例に、前示のとおり、「この防災システムは、使用中断中に高圧ガスが漏洩して低圧側のガス圧が設定以上に高くなると、作動ガス圧が低い放出用安全弁が作動してガスを屋外に放出し、ガス圧の異常上昇による屋内でのガス漏洩を防止する。」(甲第6号証10頁左上欄3~7行)、「第6図のように、放出用安全弁10の出口側に作動ガス圧が低い自動遮断装置11を併設すると、放出用安全弁10の作動ガス圧を高く設定できるので、弁2cの高圧ガス遮断力が強くなるため、無駄な漏洩ガス放散を防止できる。」(同号証10頁左上欄19行~右上欄4行)と記載されており、このことからすると、引用例考案において、放出用安全弁10は、低圧側のガス圧が規定以上に高くなったときに作動して、高圧ガスを大気中に放出するために設けられたものであって、高圧ガスが低圧側の各種ガス器具に流入しないように二重に安全性を高めるため、自動遮断装置11の自動遮断弁11cとともに供給装置内に併設されたものであるから、その安全性が自動遮断装置11の自動遮断弁11cのみで十分に確保されるものであるならば、これを除去し、これが存在することによる無駄な漏洩ガス放散を防止することが可能となることは、当業者がきわめて容易に考えることができることと認められ、その効果も引用例考案から予測される程度のものにすぎないと認められる。

すなわち、本願考案は、引用例考案に基づいて、当業者がきわめて容易に想到できるものであるといわなければならない。

(5)  なお、審決書(甲第1号証)によれば、審決は、「引用例に記載の調整器(第5図乃至第7図の態様のもの)は、『安全弁2c』を具えている。」(審決書8頁4~6行)として、引用例考案の「減圧弁」である「弁2c」を、ほしいままに「安全弁」と名付け、その実体については、「引用例に記載の『安全弁2c』は、・・・減圧に資する態様のものと解することができる。」(同8頁12~19行)として、それが「減圧弁」であることを理解しながら、この「減圧弁」である「弁2c」を、本願考案における「減圧弁2a」に対応させることなく、逆に、本願考案にいう「安全弁2c」に対応するかのように誤解して、本願考案の「従来の安全弁付き調整器を排除して」とは、減圧弁2aを含む調整器を排除したものであるかのように相違点<1>を認定し、相違点<1>の判断において、これでは本願考案の趣旨に反するとして、「本願考案が排除したのは、安全弁であるというべきで・・・減圧弁を設けたもの」(同10頁19行~11頁1行)として自らの誤解を解き、その上で、この点は、「<2>の相違点を引き出す、文言の形式上生じたもので、この点には、格別の有意性は、存しないと言うべきである。」(同11頁1~4行)としていることが認められる。

前示のとおり、本願考案も引用例考案もともに減圧弁を有するのであるから、この審決の判断は正当というべきであるが、そうとすれば、審決認定の相違点<2>の「本願考案は、高圧ガス入口側に、減圧弁を設けたのに対して、引用例に記載の考案では、調整器の安全弁に減圧に資する弁の機能を持たせて、高圧ガス入口側に設けている点」もまた、本来は一致点というべきであり、これを相違点と認定するのは実体に反するのみならず、本願考案が最も重要視した安全弁を排除した点についての考察がなおざりにされたように受け止められるきらいがあるというべきである。

このような審決のいらざる誤解が審決の論旨をきわめて分かり難いものとしており、これが、原告に対し、審決は本願考案の本質を理解していないとの印象を与える一因となっているともいうことができ、その点において審決は非難されるべき点を有するといわなければならないが、上記のとおり、本願考案は、引用例考案からきわめて容易に想到することができたものというほかはないから、審決の上記誤解は審決の結論に影響を与えるものではなく、審決の判断は、結局において正当というべきである。

2  取消事由2(実用新案法3条の2の規定違反)について

前示審決の理由のとおり、審決は、本願考案は、実用新案法3条1項3号に掲げる考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたから、同条2項の規定により実用新案登録を受けることができないとしたものである。

この場合、同条1項3号に規定する考案は、「実用新案登録出願前に日本国内において頒布された刊行物に記載された考案」であれば足り、その考案(本件でいえば「引用例考案」)と実用新案登録出願に係る考案(本件でいえば「本願考案」)の考案者又は出願人が同一の者であった場合にも、例外とはならないものである。

取消事由2は理由がない。

3  以上のとおり、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、その他審決を取り消すべき瑕疵はない。

よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 押切瞳 裁判官 芝田俊文)

平成3年審判 第21401号

審決

東京都東村山市廻田町3-19-13

請求人 蒔田義夫

昭和62年実用新案登録瀬第73004号「液化石油ガス供給装置用減圧装置」拒絶査定に対する審判事件(昭和63年11月24日出願公開、実開昭63-182398)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

1.本願は、昭和62年5月18日の出願であって、その考案(以下、「本願考案」という。)の要旨は、平成元年4月25日付手続補正書により補正された明細書及び出願当初願書に添付した図面の記載に照らし、その実用新案登録請求の範囲に記載された以下のとおりのものと認める。

「低圧側に、安全弁2cの作動ガス圧より低い気密検定基準を基に製造された元栓類、ガス燃焼器類、安全装置類、ガス導管継目などの中の一つ以上を設けた欠陥を具有する液化石油ガス供給装置の従来の安全弁付き調整器2を排除して、代りに、高圧ボンべ1と前記各種ガス器具との間に設けるための、高圧ガス入口側に減圧弁6aを設け、低圧ガス出口側に設定以上のガス圧で作動する自動遮断弁6eを設けた構造になっている従来の液化石油ガス供給装置用の減圧装置。」

2.これに対して、原査定の拒絶の理由とされた、この出願前日本国内において頒布された刊行物である「特開昭51-22297号公報」(以下、「引用例」という。)には、

(1) 「この発明は、上記の液化石油ガス関係の原因不明のガス漏洩による災害が、それに使用される関連器具と、そのシステムの欠陥にあることを解明し、且、その災害原因に対応できる防災システムの確立が目的である。」

(公報第420頁上段左欄末から2行目乃至同右欄3行目)

(2) 「この発明は、液化石油ガスを高圧ボンベで直接供給して使用する従来システムの調整器2とガス栓5類との間に、低圧側のガス圧が設定以上に高くなった場合に作動する放出用安全弁類を設備した防災システムである。

この防災システムは、使用中断中に高圧ガスが漏洩して低圧 側のガス圧が設定以上に高くなると、作動ガス圧が低い放出用安全弁が作動してガスを屋外に放出し、ガス圧の異常上昇による屋内でのガス漏洩を防止する。

この防災システムの放出用安全弁10や、併設する場合の自動遮断装置類の設備位置は、防災効果上重要である。放出用安全弁類を調整器2寄りに設備する場合は、ガス圧の上下変化が大きいため、作動ガス圧を高く設定しなければならないので、防災効果が小さくなる。当業者が容易に推理できる整圧装置類を併設すると、作動ガス圧を低く設定できるが不経済である。整圧装置類を併設する場合は調整器と一体化できる。

第5図のように、放出用安全弁10類をガス栓5寄りに設備すると、ガスは流動中に自然整圧されるので、作動ガス圧を低く設定できる。第6図のように、放出用安全弁10の出口側に作動ガス圧が低い自動遮断装置11を併設すると、放出用安全弁10の作動ガス圧を高く設定できるので、弁2cの高圧ガス遮断力が強くなるため、無駄な漏洩ガス放散を防止できる。第7図は高圧ガス漏洩に対する最も効果的な防災システムである。従来の調整器2と安全弁2aをそのまゝ利用でき、自動遮断装置11の作動ガス圧は、ガス栓5入口側の閉塞ガス圧より若干高く設定し、放出用安全弁10の作動ガス圧は、自動遮断装置11の作動ガス圧より若干高く設定すると、ガス栓5入ロ側のガス圧は、どのような条件の場合にも、常時、自動遮断装置または放出用安全弁の作動ガス圧以下に保たれる。

調整器内の安全弁2aは、ガス圧の変化が大きいため、作動ガス圧を低く、正確に作動するように設定できない。連結杆等が破損した場合に作動しない等の欠陥もあるので、安全弁類は調整器と分離して、効果的に設定作動できるように、ガス栓5寄りに設備すべきである。経済的でもある。

自動遮断装置類を併設して、それが作動した場合、それは調整器に異常が生じたことを示す。そのような場合、調整器の点検、パッキンの交換等の整備、調整ガス圧の再設定等が防災上必要であり、そのためには、調整器の異常発生を事前に予知できるように、自動遮断装置類は手動復帰式にすべきである。

自動遮断装置や放出用安全弁類は、ガス導管との嵌合部分等もあり、ダイヤフラム等を利用している場合は、それらの経年劣化も不可避なので、それらの装置は屋外に設備して万全の防災対策を計るべきである。

放出用安全弁や自動遮断装置類は周知の各種構造のものを利用できる。この防災システムは産業装置関係にも利用できる。

特許請求範囲内の調整器2とガス栓5との間の中には、作動ガス圧を低く設定するための整圧装置類と放出用安全弁類を調整器と一体化した場合や、ガス栓と一体化した場合を含む。自動遮断装置類と放出用安全弁類を一体化してもよい。一体化構造も各種推理できる。」

(公報第421頁下段右欄末より3行目乃至422頁下段左欄末行)

(3) 「第5・6・7図はこの発明の防災システムの各種説明用例図。

1…高圧ボンベ。1a…高圧用安全弁。1b…手動遮断弁。2…調整器。2a…安全弁。2b…弁座。2c…弁。2d…ダイヤフラム。2e…パッキン。3…ガスメーター。4…ガス導管。5…ガス栓。6…ホース。7…ガス器具栓。8…壁。9…異物。10…放出用安全弁。10a…ダイヤフラム。10b…弁。10c…放出口。11…自動遮断装置。11a…ダイヤフラム。11b…永久磁石。11e…弁。」

(図面の簡単な説明の項抜粋)、

が、それぞれ、記載されている。

3.本願考案と引用例に記載の技術的事項(之も、自然法則を利用した技術的思想の創作にして、物品の構造にかゝるところ、「考案」に該当する。)とを対比検討すると、

引用例に記載された「ガス栓5」及び「栓5に接続されたホース6」(第6図の態様)は、本願考案に言う「元栓類」及び「ガス導管継目」に相当し、これらは何れも低圧側に存し、勿論、安全弁の機能からみて安全弁の作動圧よりも低い気密検定基準の下に製造されているものと言うべきである。そして、かゝる栓類や継目などを設けた第5~7図の高圧ボンベに接続された装置は、本願考案に言う「液化石油ガス供給装置」に相当している。

また、引用例に記載の調整器(第5図乃至第7図の態様のもの)は、「安全弁2c」を具えている。

さらに、引用例に記載の「自動遮断装置11の弁11c」は、本願考案の「自動遮断弁」に相当し、該遮断弁は、低圧ガス出口側に設けられており、勿論、その機能からみて、設定以上のガス圧で作動するものであると言うべきである。

さらにまた、引用例に記載の「安全弁2c」は、第5~7図図示の態様から見るに、低圧側の圧力が所定以上の高圧にならないよう、バネ及びダイヤフラムにより室内の圧力が高くなると天井が高くなり、その結果、梃子の原理により支点を通じて回転力を受けて加圧ガス出口からの量を弁が抑制するように稼働しており、減圧に資する態様のものと解することができる。

ところで、本願明細書の登録請求の範囲に於ける「欠陥を具有する」という文言は、曖昧であり、考案の構成に欠くことができない事項として必須不可欠なものなのか不明であり、格別の有意義性を認めることができない。

上記のとおりであるから、引用例には、実質上、

「低圧側に、安全弁の作動ガス圧より低い気密検定基準を基に製造された元栓類、ガス燃焼器類、安全装置類、ガス導管継目などの中の一つ以上を設けた液化石油ガス供給装置の従来の安全弁付き調整器を配設して、かつ高圧ボンべと前記各種ガス器具との間に設けるための、高圧ガス入口側に減圧に資する弁(安全弁)を設け、低圧ガス出口側に設定以上のガス圧で作動する自動遮断弁を設けた構造になっている従来の液化石油ガス供給装置用の減圧装置。」

が、開示されていると捉えられる。

4.本願考案と引用例に記載の考案とを比較してみると、

<1> 本願考案は、「欠陥を具有する液化石油ガス供給装置の従来の安全弁付き調整器を排除して」いるのに対して、引用例に記載の考案では、液化石油ガス供給装置の従来の安全弁付き調整器を配設している点、及び

<2> 本願考案は、高圧ガス入口側に、減圧弁を設けたのに対して、引用例に記載の考案では、調整器の安全弁に減圧に資する弁の機能を持たせて、高圧ガス入口側に設けている点、

において、それぞれ、相違している。

5.そこで、これらの相違点<1>及び<2>につき、審案する。

(1) 相違点<1>

本願考案も、「従来の液化石油ガス供給装置用の減圧装置」(請求の範囲の末尾の記載)となっており、従来の液化石油ガス供給装置を基盤としており、装置の安全に役立つ調整器が存するとしても、本願考案の技術的趣意に悖るものではないというべきである。

然りとすれば、本願考案が排除したのは、安全弁であるというべきで、その安全弁の代わりに減圧弁を設けたものとして、実質的には、<2>の相違点を引き出す、文言の形式上生じたもので、この点には、格別の有意性は、存しないと言うべきである〔実質上の判断は、次の(2)を、参照〕。

(2) 相違点<2>

ところで、弁の開きを自動調節し減圧側圧力を一定に保つところの減圧弁を高圧ガス(流体)入口側に設けることは、この出願前普通に知られた技術である〔例えば、昭和60年7月15日社団法人日本機械学会発行「機械工学便覧(改訂第6版)」(ⅰ) 第7-185頁C減圧弁の項、第364図及び第365図、

(ⅱ) 第9-101頁乃至102頁c.減圧弁の項、

(ⅲ) 第10-59頁d.減圧弁の項及び第142図、

を、それぞれ、参照〕。

本願考案は、引用例の考案における減圧に資する安全弁に代えて、上掲周知の減圧弁を用いたものに相当し、この点は、減圧弁をガス制御に用いることが普遍的通用性を有することからみて、当業者がきわめて容易になし得る周知技術の代替の域を出ないものと言うべきであり、よってもたらされる効果も格別顕著であるとは認め難い。

6.以上のとおりであるから、本願考案は、結局、この出願前日本国内において頒布された刊行物である引用例に記載された考案に基づいて、当業者が、きわめて容易に考案をすることができたものと認められるので、実用新案法第3条第2項の規定により、本願考案につき、実用新案登録を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成5年10月7日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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